トップ複眼道場について羅針盤と燃料とエンジン

複眼道場

羅針盤と燃料とエンジン
── 囚われは、燃やすものではなく、読むもの

自分の囚われが見えてきたあと、多くの人が困るのは、じゃあこれをどうすればいいのか、というところ。捨てるものでもないし、そのまま使い続けるのも違う気がする。答えを先に書くと、囚われが反応したとき、選べるのは二つ。燃やして走るか、読んで方向を知るか。羅針盤と燃料とエンジンを分けながら、順に見ていく。

同僚の資料を見て、6つ数えた人

同僚が作った資料を読んで、よくできているな、と思ったとする。しかも、どこがいいのかを具体的に言える。

構成が最初から見えている。反論が先に潰してある。図が一枚で伝わる。締め切りより早い。数字の出どころが全部書いてある。読み手が誰かで書き分けている。

6つ挙がった。挙げたあと、その人はこう思う。自分にはこれが無い。

ここまでで1セットになっている。見つけて、数えて、自分を下げる。数えれば数えるほど、証拠が増えていく。

この場面を、最後まで使う。ここには羅針盤も燃料もエンジンも、全部入っている。

そして三つとも、行動ではなく動機の話になる。エニアグラムが動機の理論だというのは、そういうこと。

挙がった6つは、欲しいものの一覧になっている

6つ挙げられたのは、そこに反応したから。反応していないものは、そもそも目に入らない。

だから、挙がった6つはその人が欲しいものの一覧として読める。これが羅針盤。行き先が書いてある。

ただし、読める形になっているかどうかは、先に確かめたい。

憧れは、相手を見て終わる。すごいな、で完結して、あとは自分の仕事に戻る。羨望は、相手を見たあとで自分に戻ってくる。すごいな、に続けて、それに比べて自分は、が出る。

ややこしいのは、羨望のほうが相手を高く評価すること。貶めない。むしろ持ち上げる。そして持ち上げるほど、自分との距離が確定していく。だから本人には妬んでいる自覚が出ない。本当にすごいと思っているから。

見分けるところはひとつ。話が相手で終わるか、自分に戻ってくるか。戻ってきたぶんが、読める。

読み方は、分解すること。まとめて「優秀な人」にせず、一つずつ分ける。速さに反応したのか、態度に反応したのか、順番に反応したのか。

分解するというのは、行動から動機へ降りること。挙がった6つは、相手の行動。でも反応したのは行動そのものではなくて、それが満たしている動機のほう。同じ行動でも、動機が違えば別のものになる(行動と動機の断層)。

たとえば、速さに反応したつもりでいて、よく見ると「反論が先に潰してある」のほうに強く引っかかっていた、ということがある。だとすると欲しいのは速さではない。出したものを、自分で守れる状態にして出したい、という話になる。速さや図のうまさは、そのついでに目に入っただけかもしれない。

そこまで降りると、たいてい次のことが起きる。それを既にやっている場面が、自分の日常のどこかにある。仕事では出せていなくても、別の場所では出ている。人に説明するときだけ出ている、ということもある。

まとめて「あの人は優秀で自分はだめだ」で束ねているあいだは、そこが見えない。束ねた形のままだと、証拠にしかならない。

降りていくと、たいてい同じところに出る。いま握りしめているものは、目的ではなく手段だった、というところ。

タイプ4を例にすると分かりやすい。4が欲しいのは、たぶん特別さそのものではない。分解していくと、自分から出たものが誰かに受け取られている場面のほうに反応していることが多い。特別さは、届くために選ばれた手段だったということになる。

そして手段のほうが目的になると、逆に働きはじめる。特別であること自体を守ろうとするほど、人と違っていくので、届きにくくなる。タイプ4の地図にある「自分らしさを求めるほど、ありのままの自分から遠ざかる」を、動機の側から見るとこうなる。

どのタイプでも形は同じ。握っているものが目的なのか手段なのかは、握っているあいだは見えない。分解して初めて分かれる。

ひとつ注意がある。分解して選ぶときにも、囚われは働く。並べた中から、いちばん居心地のいいものを選びがちになる。選んだものが既に自分でやっていることなら、そこは飛ばして、次に引っかかるものを見たほうがいい。

▶ 羅針盤の使い方

それに比べて自分は、が出たら、そこで止めて、何に反応したのかを一つずつ書き出す。持っていないものの一覧ではなく、欲しいものの一覧として置いておく。

たいていは、読まれずに燃やされる

実際には、6つ挙げたあとどうなるか。その人は席に戻って、夜中まで資料を作り直す。

動いている。何で動いているかというと、自分にはこれが無い、という感覚で動いている。これが燃料。言い換えると、そのときの動機のこと。そして、かなりよく燃える。足りないという感覚は強い力になるので、実際その夜の資料はよくなる。

同じ資料を作り直すのでも、足りないから作り直すのと、よくしたいから作り直すのでは、手元に残るものが違う。行動は同じで、動機が違う。

ただ、着いたときに回収されない。

昇進した月に、自分はまだ何一つできるようになっていない、と書いた人がいる。周りから見れば達成している。本人の中では、達成として記録されていない。

走った理由が「足りていないから」だったので、達成が「足りている」に変換されない。最初から足りないことを前提に組まれた燃料なので、埋まった状態を扱えるようになっていない。だから、その夜の資料が褒められても、たぶん軽くならない。

各タイプの地図で空焚きと呼んでいるのが、この状態のこと。欲求から動いているのか、恐れから動いているのかで、同じ行動でも残るものが変わる。

では、入れ替える先は何か。遠くから調達するものではない。自分がもともと持っていて、ただ価値のあるものとして扱ってこなかったもののほうが多い。自分では欠点だと思って隠してきたものが、そのまま核だったというのは、よくある。囚われの側から見ると欠点に見えるので、本人がいちばん低く見積もっている。

各タイプが何で走って、何で切れるのかは、各タイプの地図の「このエンジンは、何で走るか」に燃料表としてまとめてある。妙にやる気の出ない仕事や、会うと消耗する関係があるなら、能力や相性を疑う前に、そちらを見たほうが早いことがある。

▶ 燃料の使い方

いま何で動いているかを見る。足りないから動いているのか、やりたいから動いているのか。燃料は入れ替えられる。ただし、時間はかかる(後述)。

そもそも、何に反応するかは選んでいない

同じ資料を、別の人が読んだらどうなるか。

誰にも相談せずに一人で仕上げたのか、と思う人がいる。あれだけの量を短時間で出したのか、と思う人がいる。誰にも角を立てずに通したのか、と思う人がいる。同じ資料なのに、目に入る場所が違う。

何が目に入るかは、選んでいない。気づいたら、そこを見ている。これがエンジン。タイプというのは、この目盛りの型のこと。

ここも動機の話になっている。目に入るのは、自分が欲しがっているものが満たされている場面のほう。だからエニアグラムは、行動を9つに分類しているのではなくて、何を欲しがるかの型が9つある、という理論になっている。

比べること自体は、どのタイプでも起きる。違うのは、何を見て比べるか。

何を目盛りにするか比べたあとに出てくる結論
1正しさ、きちんとしている度合いあの人はちゃんとしている。自分は雑だ
2好かれ方、人が集まる度合いあの人には人が寄っていく。自分は必要とされていない
3成果、速さ、できる度合いあの人は結果を出している。自分は何も出していない
4固有性、その人にしかないものあの人には中身がある。自分は空っぽだ
5理解の深さ、知っている量あの人は分かっている。自分は分かったふりをしている
6拠り所のあるなし、迷いのなさあの人は立つ場所がある。自分だけ足元が無い
7楽しんでいる度合い、身軽さあの人は面白がれている。自分は身動きが取れていない
8強さ、影響力、押し通せる度合いあの人は場を動かしている。自分は舐められている
9落ち着き、揉めていない度合いあの人は波風なくやれている。自分は場を乱している

自分がどの列を使っているかは、比べたあとに口から出る言葉で分かる。雑だ、なのか、空っぽだ、なのか、舐められている、なのか。そこがそのまま、いちばん欲しいものを指している。

この目盛りは、取り替えられない。8が4の目盛りで人を見るようにはならない。だから、変えようとしても消耗するだけになる。

そのかわり、置き場所は選べる。同じ目盛りが、力になる場所と、消耗の原因になる場所がある。4の細かい感度は、言葉になっていないものに名前をつける場面では効くが、規格どおりに量を出す場面では引っかかるだけになる。合わない場所で消耗しているとき、疑うのは能力ではなく置き場所のほう。

▶ エンジンの使い方

変えない。自分がどの目盛りで人を見ているかを知って、それが力になる場所を選ぶ。合わない場所に置かれると、同じ型が消耗の原因になる。

順番がある

ここまで読んで、じゃあ今すぐ燃料を持ち替えよう、とはならないほうがいい。順番があるので。

そして順番として、古い燃料が切れてからでないと、新しいほうは見つからない。両方を持っている状態は、あまり起きない。足りないという感覚で走れているうちは、それ以外の理由を探す必要が無いから。

だから、いま燃やして走っている人は、それでいい。持ち替えは自分のタイミングで来る。

ただ、羅針盤として読むほうは、今日からできる。相手を下げる必要もない。すごいと思ったのは、たぶん本当にそうだから。そこは変えなくていい。変えるのは、そのあと自分に戻ってきた分の使い道のほう。

片方だけだと、進まない

読むほうに寄せて書いてきたので、走らなくてよくなる話に読めるかもしれない。そうではない。燃料を変える話であって、止まる話ではない。

ただ、逆もある。足りないという感覚だけで走り続けると、着いても回収されない。

頑張るほうだけだと、走った分が残らない。傷をそのまま燃やしているので、走るほど減っていく。癒すほうだけだと、そもそも動かない。自分を認めたところで止まって、外の世界は何も変わらない。

両方が要る。片方だけだと、進んでいるように見えて、あとに残らない。

そして、認めることは走ることの反対側ではない。足りないと思って走ってきた、と認めないと、燃料は入れ替えられない。認める作業は、燃料を替えるための工程として要る。

ありたい自分、と考えるときにも同じ二方向が出てくる。上に向かう「もっとこうあれたら」と、奥に向かう「本当はこうだったはずなのに」。そちらはありたい自分の二方向性で扱っている。

9タイプの一覧

ここまでの三つを、タイプごとに並べておく。自分の行だけ見ればいい。

エンジン
何が目に入るか
燃料
いま何で走っているか
羅針盤
反応が指している先
入れ替わると
できるようになること
1正しさ、きちんとしている度合い間違っていたくない。雑なままでいたくない手をかけたものが、ちゃんと形になること手を止められる
2好かれ方、人が集まる度合い必要とされていない状態でいたくない自分が関わったことで、誰かが実際に楽になること自分の要求を出せる
3成果、速さ、できる度合い何も出していない状態でいたくないできるようになっていく手応えそのもの成果の無い時間に耐えられる
4固有性、その人にしかないもの空っぽだと思われたくない自分から出たものが、形になって誰かに届くこと完成させられる
5理解の深さ、知っている量分かっていないまま人前に出たくない分かること自体の面白さ途中のものを人に見せられる
6拠り所のあるなし、迷いのなさ足元が抜けるのが怖い信頼できる相手や場と、長く続けること自分で決めて動ける
7楽しんでいる度合い、身軽さつまらない場所に閉じ込められたくない目の前のものを面白がれることひとつに留まれる
8強さ、影響力、押し通せる度合い舐められたくない自分で決めて、守りたいものを守れること人に任せられる
9落ち着き、揉めていない度合い揉めごとに巻き込まれたくない自分も含めて、みんなが収まっている状態自分の意見を出せる

燃料の列と羅針盤の列は、よく見ると近いところを向いている。同じ方向を、後ろから押しているか、前から引いているかの違い。押されて走っているあいだは、前に何があるかは見えない。

だから、燃料の列で走れているうちは、羅針盤の列は読みにくい。読めるようになるのは、たいてい燃料が切れかけたとき。

いちばん右の列は、判定にも使える。最近それができた場面があるかどうか。4なら、ちゃんと完成させたものが最近あるか。恐れで走っているあいだ、4は完成させられない。完成が妥協に見えるので、未完成のままのほうが安全になる。制作途中のものばかり溜まっていくのは、そういう仕組み。

まとめ

三つとも、行動ではなく動機の層にある。だから外からは見えないし、他人が測れるものでもない。同じことをやっている二人が、まったく別の理由で動いていることがある。

やっていることを一言でいえば、動機の解像度を上げて、出所を替えること。型のほうは変えない。羅針盤が解像度を上げ、燃料が出所を替え、エンジンは変えずに置き場所を選ぶ。

何のことかどう使うか
羅針盤反応したもの自体が、欲しいものを指している分解して読む。証拠として保管しない
燃料いま何で動いているか入れ替えられる。ただし順番と時間が要る
エンジン何が目に入るかの型。9通りある変えない。力になる場所を選ぶ
決めつけの掟:見立ては、いつでも仮説。タイプのラベルは人に貼るためではなく、動機と構造を見るため、まず自分を見るために使う。「あの人は空焚きだ」と人を値踏みするためではなく、自分が何を目盛りにして比べているかを知るために使う。
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