動機と対象
「あの人ほどではない」が起きる理由
入門書や診断ツールで流通するイメージには、それぞれ強い喚起力がある。「タイプ7はパリピみたいな人」「タイプ4は芸術家肌」「タイプ8はカリスマリーダー」「タイプ1は完璧主義者」。読み手は無意識に、典型像を「全体」と同一視する。
すると「自分はそれほどじゃない」「あの人とは対象が違う」と感じやすい。動機の核(抽象)を捉えそびれて、典型対象(具体)に引っ張られているからだ。動機は固定だが、対象は変わる。同じ動機の人でも、向かう対象は人によって幅広く分布する。
例えば、囚われ(そのタイプ特有の、ものの見方の自動パターン)が作動している場合のタイプ7の動きを「停止と退屈に留まれない」と捉えると、ある人ではパーティーや旅行に向かい、別の人では慈善活動に向かい、また別の人では頭の中で次々考え続ける形に向かう。外見の振れ幅は大きいが、エンジンは同じ。「ピンと来ない」を解く作業は、典型対象から動機の核へ降りる翻訳作業のこと。
行動や対象がタイプの典型例とずれていても、別のタイプであることの証拠にはならない。動機まで降りて、自分の対象を書き出して、同型かを確かめる作業のほうが大事。
動機と対象を分けて見る二段モデル
タイプを読むときの軸を、動機と対象の二層に分けて整理してみる。
| 層 | 内容 | 性質 |
|---|---|---|
| 動機(motive) | タイプの構造、「なぜそうするのか」の核 | 固定。文化・時代・個人差を超えて9通り |
| 対象(content/object) | 動機が向かう「何に対して」 | 変動。生育環境・出会い・偶然で決まる部分が大きい |
動機は変えにくいとされている(伝統的な理論でも、タイプは生涯変わらないとされる)。一方、対象は同じ動機の人でも幅広く分布する。対象選択を決めているのは、ざっくり次の三つ。
- 生育環境(子ども時代に何が「効いた」か。何が承認や注目を引き出したか)
- 出会い(誰と接したか、どんな本を読んだか、どんな職業に就いたか)
- 偶然(その時代に流行っていたもの、たまたま手に入る環境にあったもの)
対象を決める要素は、個人ごとにばらつく。だから同じタイプ7でも、ある人は登山に、ある人は推し活に、ある人は慈善活動に対象が向かう。対象がどんなに違って見えても、動機まで降りれば同型のことが多い。
動機が同型なら、対象が違っても同じタイプ
例えば、囚われ時のタイプ8の動機の核を「支配されず、自分の領域と身内を自分で守りたい」と捉える。動機の出方のひとつが「近接圏(家族や部下など、自分の身内と感じる範囲)の様子を読み取り、感じ取った言葉を放置できずに代弁する」動きだとすると、外見の出方はまるで違っても動機は同型ということがある。
同じ動機、違う対象の例(囚われ時のタイプ8)
対象A: カリスマ経営者。会社という近接圏で、社員の言いたいことを察知して代弁・主導する
対象B: 温和に見える家庭の主婦/主夫。家族という近接圏で、家族の言いたいことを察知して代弁・守る
外見上は別人。でもエンジンは同じ。前者は会社が圏、後者は家族が圏、というだけ。
9タイプ × 対象例の地図
各タイプの動機の核と、対象がどこに向かいうるかの幅を並べてみる。あくまで一例で、書き足せる対象は他にもある。
| タイプ | 動機の核(固定) | 対象例(個人で変動) |
|---|---|---|
| 1 | 正しくありたい。欠陥のある自分でいたくない | 仕事の質/家事/政治・社会の理不尽/子育てのしつけ/自分の体調管理 |
| 2 | 愛され、必要とされたい。必要とされない自分でいたくない | 家族/職場の同僚/恋人/特定の友人/見知らぬ弱者/PTA・町内会 |
| 3 | 価値ある存在でありたい。価値のない自分でいたくない | キャリア・年収/SNSフォロワー/子育ての成果/趣味のレベル/外見 |
| 4 | 自分らしくありたい。何者でもない自分でいたくない | 芸術・創作/服装・美意識/精神世界/特定の感情/恋愛/サブカルチャー |
| 5 | 有能で、わかっていたい。無力で役に立たない自分でいたくない | 専門領域/ゲーム・SF/投資・節約/哲学・思想/ニッチな趣味 |
| 6 | 支えと安心がほしい。支えを失いたくない | 組織・会社/家族/イデオロギー/伝統・慣習/特定の権威人物 |
| 7 | 満たされていたい。痛みや欠乏に閉じ込められたくない | 慈善活動/買い物/お菓子作り/推し活/語学/旅行/食/自己啓発 |
| 8 | 支配されず、自分の領域と身内を自分で守りたい | 家族/部下/親しい友人/特定のコミュニティ/特定の被害者・弱者 |
| 9 | 内も外も穏やかでいたい。つながりを失い、ばらばらになりたくない | 趣味の一点/家族の習慣/ニッチな関心/政治・社会の特定論点/食・健康 |
表の使い方:
- 動機の核(中央列)が動いていれば、対象が右列のどれであっても、同じタイプの可能性がある
- 右列のどれにも当てはまらないなら、自分の対象を右列に書き足してもいい。動機が同型なら、それも同じタイプの一例
- 「あの人ほどはやっていない」は対象の量や派手さの話で、動機は同じことが多い
対象はどこまでコントロール可能か
以下は推論を含む論。確定したことではなく、考える材料として置く。
エニアグラムの古典は「動機は固定、健全度(同じタイプの中での状態の良し悪しの物差し)を上げると動機への執着が緩む」と言う。対象選択そのものを意識的にコントロールできるかは別の問題で、明示的には扱われにくい。実感ベースで言えば、対象は子ども時代の環境や出会いの中で「無意識に選ばれた」部分が大きい。意識して選んだわけではない。
一方で、自覚すれば、対象選択にゆるい介入はできる。地雷を踏まれにくい場所に動く、害の少ない対象に置換する、などの形。ただし置換は新しい鎧の補強にもなる。例えば囚われ時のタイプ7が衝動的買い物を慈善活動に置換すると、慈善活動中毒になるだけのこともある。
「対象の置換」と「動機との関係を変える」の違い
対象の置換は、動機の動き方は変えずに、動きの矛先だけを変える。応急処置として機能する場面もある。
もう一つは、動機との関係を変える方向。動機が動いていることに気づいた上で、動機に乗るか降りるかを選べるようになるのが、本来のエニアグラム学習の方向(各タイプの「鎧を使う/使わない」を選べる状態)。
両者は混ざる。健全度が上がる過程で、対象選択もより害の少ないものへとゆるやかに動くことが多い。が、対象の置換だけでは健全度は上がりにくい。
社会生活では「対象が何か」が大事
動機を変えにくいとしても、対象が何になるかは関係や生活への影響を決める。
- 囚われ時のタイプ8が家族をスキャンの対象にしているか、職場の弱者をスキャンの対象にしているかで、近くの人の経験は大きく変わる
- 囚われ時のタイプ2が子どもを世話の対象にしているか、職場の同僚を世話の対象にしているかで、子どもの自由度は大きく変わる
社会生活の現実において、「対象を意識化する」ことには、動機の変えにくさとは別に、固有の意味がある。
「ピンと来ない」を解く手順
診断結果がしっくりこないとき、対象から動機へ降りる作業を試してみる手順。
- 世間のイメージを一度カッコに入れる。「タイプN=◯◯な人」のイメージは、典型対象例を全体と同一視したものなので、外す
- 候補のタイプの動機の核を読む。各タイプの場面別の反応やタイプ確定が難しい理由を参考に
- 自分の対象を書き出す。動機が今、何に向かっているかを複数挙げる。優先順位もばらついていい
- 動機が同型かを確かめる。対象が違っても、駆動しているエンジンが同型なら、候補のタイプの可能性がある
- 対象を選び直す前に、動機を見る。すぐ対象を変えるのではなく、まず「なぜこの対象を選んでいるか」を動機まで降りて見る
タイプ判定に迷っている人へ。世間のイメージや、近くにいる典型例とずれていても、別のタイプであることの証拠にはならない。動機まで降りて、自分の対象を書き出して、同型かを確かめる。タイプは動機の地図であって、対象の博物館ではない。タイプの確定は最終的に自分自身で行うもの。