成人発達理論とは
大人になったら、人の意識の成長は止まる。長いあいだ、そう考えられてきました。成人発達理論は、この前提をひっくり返します。大人になってからも、知識が増えるのとは別の方向で、ものの見え方の構造そのものが変わり続ける。この記事では、成人発達理論の基本と、よくある誤解、エニアグラムとの関係をまとめます。
成人発達理論とは
成人発達理論は、大人の意識がどのように育つかを扱う、発達心理学の領域です。子どもの発達の研究を大人に広げたもので、組織開発やリーダー育成の分野で広く使われるようになりました。
ひとつの理論というより、似た考え方をもつ複数のモデルの総称です。段階の数や名前はモデルによって違いますが、「大人の意識は、いくつかの質的な段階を順に通って育つ」という骨組みは共通しています。
水平の成長と、垂直の成長
成長には2種類あります。
| 水平の成長 | 垂直の成長 | |
|---|---|---|
| 何が変わるか | 知識やスキルが増える | ものの見え方の構造が変わる |
| たとえると | 同じ階で部屋が増える | 階そのものが上がる |
| 起こし方 | 学ぶ、練習する | 自分が当たり前だと思っていたものに気づく |
自己啓発の本を何冊読んでも景色が変わらないなら、水平方向にだけ進んでいるのかもしれません。成人発達理論が扱うのは、垂直方向の変化です(垂直的成長と水平的成長)。
発達の仕組み:見えなかったものが見えるようになる
成人発達理論は、発達を「主体」と「客体」の入れ替わりとして描きます。
- 主体:自分がその中に埋め込まれていて、客観的に見られないもの。自分そのものだと思っているもの
- 客体:自分から切り離して、観察したり扱ったりできるようになったもの
段階が上がるとは、それまで主体だったものが客体になることです。どっぷり浸かっていたものから、一歩引いて見えるようになる。たとえば「周りに合わせるのが当たり前」だった人が、「自分は周りに合わせていたのか」と気づけたとき、周りの規範は主体から客体に移っています。
大人の意識の、代表的な段階
代表的なモデルでは、大人の意識の段階をおおまかに次のように分けます。モデルごとに呼び名は違いますが、中身はよく似ています。
| 段階 | 判断のよりどころ | まだ見えにくいもの |
|---|---|---|
| 自分の利益で動く段階 | 自分の欲求や損得 | 他人の立場からの見え方 |
| 周りに合わせる段階 | 所属する集団の規範、周りの期待 | 「自分はどう思うか」 |
| 自分の軸で動く段階 | 自分で作った価値観や基準 | 自分の価値観そのものの偏り |
| 自分の軸を相対化できる段階 | 複数の見方を行き来すること | (より大きな枠組みへの問いが続く) |
インテグラル理論では、同じ流れを色で呼び分けます。周りに合わせる段階がアンバー、自分の軸で動く段階がオレンジ、多様な声を平等に扱おうとする段階がグリーン、それらを文脈で使い分けられる段階がティールにおおまかに重なります。色ごとの具体的な違いは発達段階とはにまとめています。
よくある誤解
段階が高いほど、偉い
段階が上がるほど、見える範囲は広くなります。ただ、それは人としての価値の上下でも、幸せの保証でもありません。段階は、使える器の天井を決めるものです。天井が高いことと、いまその器を使えていることは別です。余裕のある「周りに合わせる段階」の人が、余裕のない「自分の軸で動く段階」の人より、よい振る舞いをすることは普通にあります。
知識を増やせば、段階が上がる
本を読んで理解することは水平の成長です。段階が変わるのは、自分が当たり前だと思っていたものに気づいたときで、これは知識の量とは別の方向に起きます。「頭ではわかっているのに変われない」のは、そのためかもしれません(発達ラインのでこぼこ)。
一度上がれば、ずっとその段階にいる
疲れているとき、追い詰められたときは、ふだんより手前の段階の見方で動くことがあります。逆に、瞑想や深い対話のあとなどに、一時的にふだんより広い見方ができることもあります。一時的な状態と、定着した段階は分けて考えます(ステート)。
人に貼るラベルとして使う
「あの人はまだ周りに合わせる段階だから」と人を上から見る使い方は、道具の誤用です。段階の見立ては、いつでも仮説です。まず自分を見るために使います。
エニアグラムとの関係
成人発達理論が「どこまで見えるか」を扱うのに対して、エニアグラムは「何に囚われやすいか」を扱います。見ている軸が違うので、両方あると、いまの自分がどこにいて、どちらに向かっているのかが見えやすくなります。
| 成人発達理論の段階 | エニアグラムの健全度 | |
|---|---|---|
| 見ているもの | 見える範囲の広さ(器の天井) | いまその器をどれだけ使えているか |
| 動き方 | 年単位で、ゆっくり変わる | 日単位でも上下する |
| たとえば | 他人の価値観を、自分とは別のものとして扱えるか | 今日は余裕があって、いつもの反応を選び直せたか |
エニアグラムで自分のパターンに気づくことは、そのまま主体が客体になる動きです。「正しくなければならない」と無意識に動いていた人が、「自分にはそういう囚われがある」と気づけたとき、その駆動は主体から客体に移っています。健全度との違いはエニアグラムの健全度と、発達段階の違いで詳しく扱っています。
成人発達理論を、どう使うか
- 自分に対して:いま自分が「当たり前」だと思っていて、疑ったことのないものは何かを探す
- 人との関係に対して:噛み合わない相手を、段階の上下ではなく、見ているものの違いとして読む(なぜあの人と噛み合わないのか)
- 組織に対して:その組織で「普通」とされている判断の基準が、どの段階の見方から来ているかを見る
インテグラル理論の全体像はインテグラル理論とは、段階を飛ばせない理由は「超えて含む」とはにあります。