追い詰められたとき、何が出てくるのか
追い詰められると、人はどうなるか
まずはエニアグラムの言葉を使わずに書きます。強い負荷がかかったとき、多くの人に起きることです。
- 見える範囲が狭くなる。目の前の問題しか見えなくなり、ふだんなら思いつく別の手が浮かばなくなる
- いつものやり方が行き過ぎる。ふだんは役に立っている得意なやり方を、同じ場面で何度も、強めに使う
- 引っ込む、押す、しがみつく。人から離れる人もいれば、もっと前に出る人も、決まりや役割にしがみつく人もいる
- 感情がそのまま出る。恥ずかしさ、不安、怒りが、いつもの言い方を通らずに出てくる
- らしくない顔が出る。あとから振り返って「あのときの自分は何だったんだ」と思うような振る舞いをする
逆のことも起きます。安心できる相手の前や家の中では、ふだん着ている鎧がゆるみます。外では見せない世話焼きな面や、甘えた面が出ることもあれば、外では抑えている雑さや不機嫌が出ることもあります。外と家で別人に見えるのは、多くの人に心当たりがあると思います。
どちらも、その人が壊れているわけではありません。負荷や安心の度合いによって、表に出てくるものが入れ替わっている、という見方ができます。
成長とは、対応範囲が広がること
では、成長とは何でしょうか。複眼道場では、成長を「対応範囲が広がること」と考えています。器という言葉で言えば、扱える文脈の幅が広がることです。自分とは違う人を受け止められる。矛盾を、どちらかに潰さずに抱えられる。「絶対こうだ」を「こういう見方もある」に開ける。そこには、引き受ける、断る、距離を取る、環境を変える、を状況に応じて選べるようになることも含まれます。
広がり方には三つの段階があります。
追い詰められる場面との関係で言うと、成長は「追い詰められなくなること」ではありません。追い詰められることは、多くの人に、これからも起きます。変わるのは、らしくない顔が出たときに気づくまでの時間と、いつもの自分に戻ってくるまでの時間です。
気をつけたい取り違えも二つあります。ひとつは、ストレスで別の顔が出たのを「成長した」と読むこと。追い詰められて静かになったのが、余裕ができたからなのか、消耗して引っ込んだだけなのかは、外からはほとんど区別がつきません。もうひとつは、苦しさを成長の証拠と思うこと。慣れたやり方の外に出るときの居心地の悪さはありますが、休んでも戻らない、生活が回らない、怖さが強まり続けるなら、それは負荷を下げるサインです。
成長の考え方そのものは、複眼道場における成長とはに詳しく書いています。
出てくる顔は、どこから来るのか
追い詰められたときに出てくる顔には、いくつかの出どころがあります。エニアグラムの言葉で並べると、次の5つです。性格を層で見る考え方(性格形成の階層と診断)に合わせて、深いほうから並べます。
| 層 | 出てくるもの | どんな形で出るか |
|---|---|---|
| 感情 | センターの根本感情 | 恥、不安、怒りが、タイプの形をとる前に出てくる |
| 動機 | 自分のタイプの不健全 | 根っこの恐れが強くなり、いつものやり方が行き過ぎる |
| 動機 | ウィング側の不健全 | 隣のタイプの色が、不健全な形で混ざる |
| 動機 | 矢印の先の不健全 | 線でつながった別のタイプの、不健全な面が出る |
| 行動 | 三つ組の出方 | 後退型は引っ込む、主張型はもっと押す、従順型は決まりや役割にしがみつく。問題が起きた瞬間の最初の反応(楽観的、合理的、反応的)が、そのまま強く出ることもある |
どれが先に出るか、どれが強く出るかは、人によっても場面によっても違います。決まった順番はなく、いくつかが重なって出ることもあります。
同じ「引きこもる」でも、出どころは一つではない
たとえばタイプ8の人が、追い詰められて人と連絡を絶ち、ひとりで考え込むようになったとします。エニアグラムの理論では、タイプ8の矢印の先はタイプ5なので、「矢印の先の5の不健全な面が出ている」と読めます。一方で、追い詰められて人から離れるのは、後退型の典型的な出方でもあります。単に、怒りを向ける先が見つからずに疲れ切っているだけかもしれません。
外から見えるのは同じ行動です。どの層から来ているのかは、外からは分かりません。本人にも、すぐには分からないことが多いです。
安心できる場所で出る顔も同じです。エニアグラムでは、気を許せる相手の前では成長の矢印の先のタイプの顔が出やすい、と言われることがあります(セキュリティポイントと呼ばれます)。安心すると鎧がゆるむ、というところまでは多くの人に当てはまります。そこで出てくるのが何番のタイプの顔かは、候補のひとつとして見ておくのがいいと思います。
道具には、それぞれ持ち場がある
ここまでの話を、エニアグラムの道具ごとに整理します。どれも「何を見るための道具か」で考えると、使い分けがしやすくなります。
| 道具 | 何を見るためのものか | 使うときの目安 |
|---|---|---|
| 健全度 | 同じタイプの中での、状態の幅 | 状態を説明するときの主軸。説明のつかない行動を見たら、まず健全度を疑う |
| センター | いちばん深い層の感情(恥、不安、怒り) | 何に反応しているのかを見る入口 |
| タイプとウィング | 根っこの恐れと、隣の色の混ざり方 | ウィング側にも健全度がある。追い詰められたときは、ウィングの不健全も出てくる |
| 矢印 | 状態が動いたときに、どのタイプの色が混ざりやすいか | エニアグラムの基礎理論のひとつ。先に予測を置くのにも、出た顔からタイプを推す逆引きにも使える。特定の人に当てはめるときは仮説として置く |
| 三つ組(社会的スタイル、ハーモニクス) | 行動に近い層での、反応の出方 | 人への向かい方と、問題への最初の反応。社会に出てから身につくこともある |
| セキュリティポイント | 安心できる場所で出る顔 | 安心すると鎧がゆるむ、までは言い切ってよい。何番の顔かは候補 |
成長の矢印については、複眼道場では「向かうべきタイプ」ではなく、後回しにしてきた努力の向きとして読んでいます。苦手を直すのではなく、しにくかった努力を時間をかけて積んだ先に、届く範囲が広がる方向です。
使い方
最後に、実際に使うときの目安を四つ置きます。
- タイプの最後の決め手は、動機。矢印やウィングからの逆引きは、候補を挙げたり絞ったりする手がかりとして使えます。出た候補は、根っこの恐れや、怒り・恥・不安のどれが土台にあるかまで降りて確かめます(タイプを自分で決める)
- 予測は先に置いて、外れたら捨てる。「追い詰められたら、こうなるかもしれない」を先に書いておき、実際に起きたときに照らし合わせます。外れたら、その予測は捨てて大丈夫です
- どの層から来ているかは、ひとつに決めなくていい。同じ行動が、いくつもの層から説明できることがあります。決めきれないまま観察を続けるほうが、取り違えが少なくなります
- 見るのは、どの顔が出たかより、戻ってこられたか。らしくない顔が出たこと自体より、それに気づくまでの時間と、戻ってくるまでの時間のほうが、変わっていくものです
やられていちばん嫌なことを、追い詰められると自分がしてしまう、という形の出方もあります。それについては不健全のサインに、安心や環境で状態が一時的に動く話は環境とステートに書いています。