自分を掘るとは、何をすることか
なぜ掘るのか
やめたいのにやめられないことが、たいてい誰にでもあります。言えばいいのに言えない。任せればいいのに抱え込む。もう関わらないと決めたのに、また同じ人と同じことをする。
意志が弱いからではありません。その行動が、何かを守っているからです。守るためにやっていることは、守らなくてよくなるまで止まりません。気合いで止めても、しばらくすると戻ります(→ 囚われの形成)。
だから、何を守っているのかを先に見に行きます。それが掘るということです。
見えたところで、すぐにやめられるわけではありません。ただ、やるかやらないかを自分で決められるようになります。いまは、決める前に体が動いています。
いまの自分は、積み重なってできている
なぜそんなに見えにくいのか。できあがるまでの順番を並べると、分かりやすいです。
はじめに、怖かったことがあります。何が怖いかは人によって違います。見捨てられること。失敗すること。支配されること。必要とされないこと。取るに足らない存在になること(→ 根っこの恐れ)。
怖いので、それを避けるやり方を身につけます。先回りする。断らない。先に強く出る。感情を切り離す。何も期待しない。その時点では、うまくいっているやり方です。実際に効いたから残りました。
そのまま社会に出ます。すると社会は、そのやり方の一部をはっきり評価します。断らない人は使いやすいので重宝されます。先回りする人は気が利くと言われます。強く出る人は、決められる人だと思われます。身を守るためのやり方が、そのまま評価される。
評価されるので、もっとやります。もっとやると、もっと評価される。10年20年と積み重なって、いつのまにかそれが性格と呼ばれるものになります。本人にとっては、性格ですらありません。ただの普通です。
ここまで来ると、3つのことが同時に起きています。
- 元の恐れは、もう見えません。やり方だけが残っています
- やめようとすると、これまでうまくいっていた方法を捨てることになるので、体が抵抗します
- 周りからは長所として扱われているので、直す理由が見当たりません(→ 社会的にOKな不健全)
だから、気合いでは動きません。掘るというのは、この積み重なりを逆にたどって、いちばん下に何があったのかを見に行く作業です。順番の理論的な整理は囚われの形成にあります。
掘るとは、タイプを当て直すことではない
診断の結果がしっくりこない。それで別のタイプの説明を読みに行く。もう一度受け直す。ウィングや本能まで調べて、組み合わせを増やしてみる。よくやることですが、これで増えるのは候補の数だけです。どのタイプかの選択肢がいくら増えても、ひとつの場面で自分に何が起きていたかは分かりません。
掘るときは、場面をひとつだけ選びます。そこから下に行く。下には2つあります。
ひとつは、いま自分が健全なほうにいるのか、そうでもないのか(→ 健全度とは)。もうひとつは、そもそもなぜこう反応するようになったのか。本質があって、受け取れなかったものがあって、恐れが生まれて、それをしのぐ動機ができた。その道筋です(→ 囚われの形成)。
タイプは、そのとき使う仮説です。ゴールではありません。置いてみて、場面に当てて、合わなければ捨てる。決めるのは最後まで本人です(→ タイプを自分で決める)。
材料は1本でいい。しょうもない場面ほど役に立つ
掘ろうとすると、大きな出来事を選びたくなります。転職、別れ、家族のこと。でも大きな出来事は、もう何度も人に話しています。話した回数だけ、きれいな話になっている。固まった話を崩すのは、かなり大変です。
使えるのは、まだ誰にも説明していない小さい場面です。返信を3日置いた。会議で言おうとして、やめた。誘いを断ったあと、少し気が軽くなった。褒められて、なぜか話題を変えた。
選ぶときは、あとで思い出すと少し嫌な感じが残っているもの。あるいは、自分でもなぜそうしたか言えないもの。1本で足ります。
5つの枠に、順番に書く
選んだ1本を、上から順に埋めます。順番を飛ばすと、2つ目までで話ができあがって終わります。
| 枠 | 書くこと | コツ |
|---|---|---|
| 1|場面 | いつ、どこで、何をしたか | 解釈を混ぜない |
| 2|内側の動き | その瞬間に頭に浮かんだ言葉 | 理由に直さず、独り言のまま |
| 3|体 | そのとき、体はどうなっていたか | 思い出せなければ空でいい |
| 4|やらなかったこと | 言わなかった、聞かなかった、断らなかった | 自分では出にくい。粘って探す |
| 5|いま | 書いてみて、いまどう見えるか | 1行でいい。結論を出そうとしない |
1|場面
「イラッとした」は事実ではありません。もう解釈です。「返信を3日置いた」が事実。ここに解釈を書くと、残りの4つが全部その解釈の言い訳になります。カメラに写ることだけ書くと考えると分けやすいです。
2|内側の動き
その瞬間、頭の中で言っていた言葉を書きます。「なんで自分が」「どうせ分かってもらえない」「いま言うと面倒になる」。整った理由に直さないでください。「完璧主義なので気になった」と書いた時点で、それは後からの分析です。
3|体
そのとき、体がどうなっていたか。お腹に力が入っていた。前のめりになっていた。息が浅かった。肩が上がったままだった。帰り道で足が重かった。
思い出せないことも多いので、空でも構いません。ただ、書ける場合はいちばん嘘のつけない欄です。言葉はいくらでも整えられますが、体の記憶は整えにくい。あとで読み返したとき、書いた本人がいちばん驚くのもここです。
4|やらなかったこと
やったことは覚えています。やらずに済ませたことは、覚えていません。言わなかった、聞かなかった、頼まなかった、確認しなかった、断らなかった。動機は、やったことより避けたことに出ます(→ 行動と動機の断層)。
この欄は、たいてい空になります。自分では思いつかないのが普通です。「やったこと」を書いたあとで、その反対側に何があったかを、少し粘って探してみてください。
5|いま
ここまで書いたら、少し置いてから、いまどう見えるかを書きます。その場にいた自分ではなく、書き終えた自分の側から見た一言です。時制が違うので、枠を分けます。
1行で構いません。うまくまとめようとしないこと。「よく分からないけど、たぶんずっとこれをやっている」くらいで十分です。ここで結論を作りにいくと、そこまでの4つが台無しになります。
枠が窮屈なら、地の文でいい
見出しを立てて埋めていく形が、合わない人もいます。3行の地の文で、何があって、そのとき何を思ったかを書くだけでも成立します。枠は思い出す順番の目安であって、提出物ではありません。続くほうを選んでください。
5つ通すと、こうなる
架空の例で、通しで見てみます。中身はしょうもないほうがいいので、しょうもない場面にしました。
この1本で、タイプは分かりません。分からなくていいです。分かったことが2つあります。この人は、断るより黙るほうを選んだ。そして、頼まれなくなることの何が嫌なのかを、自分でまだ言えない。
大事なのは、あとのひとつです。掘る前は、そこに何かがあることすら見えていませんでした。
もう一段だけ、行きたいとき
ここまでは、書けば終わります。ここから先は、書いたものに自分で追い打ちをかける作業です。やらなくても構いません。やると、たいてい嫌な気持ちになります。
4つ目の「やらなかったこと」を、やっていたらどうなっていたか。そしてそれが起きると、何が困るのか。答えが出たら、その答えにもう一度、同じことを聞きます。
気まずくなると、何が困る? → 次から頼まれなくなる
頼まれなくなると、何が困る? → ここで詰まった。「別に困らない気もする。でも、たぶん困る」
2回か3回で詰まります。詰まるところまで行けたら、その日はおしまいです。
詰まったところが、本題
「別に、困らない気がする」「そこまで考えたことがない」「なんとなく嫌、としか言えない」。こう出たら、そこが根っこの手前です。
認めたくない動機があると、その手前で止まります。詰まるのは失敗ではありません。すらすら最後まで書けたときのほうが怪しくて、たいていは前から用意してあった説明をなぞっています。
やることはひとつです。詰まった、と書いておく。答えを作らないでください。ここを埋めにいくと、それらしい話ができあがって、次に同じ場面が来ても素通りします。
何本か溜まると、面白いことが起きます。いつも同じところで詰まっているのが見えてくる。場面はバラバラなのに、止まる地点が似ている。根っこの恐れは直接は見えませんが、詰まった跡の形からは読めます(→ 根っこの恐れ)。
逆のこともあります。まったく詰まらない。手が止まらず、事実がいくらでも出てくる。自分がどれだけできていないかを示す材料が、次から次に並ぶ。
これは掘れているのではありません。結論が先にあって、それを支える事実を集めている状態です。証明する作業は、掘る作業とよく似た見た目をしています。ただ、証明はもう答えが決まっているので、何も新しく出てきません。
すらすら進んだときほど、結論が先に決まっていないか疑ってください。詰まらなかった日は、詰まらなかったと書いておくといいです。
正直に言うと、しんどい
枠は5つで、3行で足ります。作業としては簡単です。しんどいのは中身です。
まず、書き始める前に手が止まります。思い出したくないから、その場面を選ばない。選ばなかったこと自体に、自分では気づきません。しょうもない場面を選ぶ、と先に書いたのは、そのほうが着手できるからでもあります。
書けたら書けたで、気分は良くなりません。出てくるのは、たいてい自分の情けないところです。「頼まれなくなるのが怖いらしい」と分かっても、誇らしくはない。分かってすっきりする、という種類のものではないです。
そして、いちばん起きやすい事故があります。出てきたものを、自分の欠点として扱ってしまうこと。これをやると、掘るほど自分を責めることになって、まず続きません。
出てきたものは、欠点ではありません。どこかの時点で必要だったから、身につけたやり方です。断らずに黙るのも、そうしたほうが安全だった場面があったから残っています。いま合わなくなっているだけで、当時はちゃんと仕事をしていました(→ 鎧を強みと呼ぶとき)。
責める方向に向かいそうになったら、そこでやめて構いません。日を空けてください。掘るのをやめてしまうより、ずっといいです。
ひとりでやると、それっぽい話で終わる
ここまでは、ひとりでできます。ただ、ひとりだけで続けると、たいてい同じ罠にはまります。自分の癖は、自分にとっての普通です。都合よく解釈していても、自分では気づけません。掘っているつもりで、思い込みを固めていることがあります(→ 知っているのに変われないのはなぜか)。
完全には防げませんが、効く手が3つあります。
| 日を空ける | 書いた直後は疑えません。1週間後に読み返すと、そのとき見えなかった飛躍が見えます |
| 外れも数える | タイプを当てるとき、合うところだけ拾わない。合わないところを数える。多ければ仮説を替える |
| 人に読んでもらう | ほしいのは同意ではありません。「そうも読めるけど、こうも読めない?」と言ってくれる人がいい |
3つ目がいちばん効きますが、いちばん手に入りません。自己申告をそのまま信じない相手は、身近にはあまりいないからです。
どこまでやれば、掘れたことになるか
完了はありません。1本やったら分かる、という種類のものではないです。
「気づけば選べるようになる」とよく言われますが、その気づくのがいちばん難しい、という順で読んだほうが正確です。自分の癖は自分にとっての普通なので、内側からは見えません。知識を入れた翌日に見えるようにはなりません。
変わり方には順番があります。最初は何も気づきません。しばらくすると、あとから「あれがそうだったか」と分かるようになる。この後追いの回数が増えるのが、最初の変化です。その場で気づけるのは、ずっと先。年単位です。
スキルというより、視力に近い。だから複眼道場では、講座ではなく稽古と呼んでいます。目指すのは癖を直すことではありません。使うか、使わないかを自分で選べるようになること。降ろしておく選択肢を取り戻すだけです。
今日の1本
3行で足ります。今日か昨日の、小さくて、少し嫌な感じが残っている場面をひとつ選んでください。
そのとき頭に浮かんだ言葉
そのとき、体はどうだったか
やらなかったこと、言わなかったこと
書いてみて、いまどう見えるか
埋まらない枠があっても大丈夫です。空のまま置いておいてください。とくに「やらなかったこと」は、最初はまず出ません。出ないと分かっていることが、次に効きます。
書く場所はどこでもいいです。紙でも、メモアプリでも。複眼道場のアプリにも日記があって、書いたものには柳川が読み筋を返します。無料で使えるので、置き場所に困ったらどうぞ。
集めたものを月ごとに読み解いていく進め方は、道場でやることにまとめてあります。